2011年12月22日木曜日

その妹 @シアタートラム


 三軒茶屋のシアタートラムで武者小路実篤の戯曲「その妹」を観る。キャストは市川亀治郎、蒼井優、秋山菜津子、段田安則他。一見救いのない物語だが、出演陣の素晴らしい演技が故か、特に後半は引き込まれ、結構重層的な物語ではないかなどと空想を巡らす。

 これは単なる身売り話、盲いた兄を助けるための自己犠牲の物語ではない。そのように見てしまうとかなり平板な物語であり、退屈きわまりない。勿論それでも、俳優陣の演技を十二分に楽しむことは可能だ。

 もしかしたらこの物語は、妹の復讐譚ではないのか。妹のことを大切に思う、助けたい、幸せを願う、などと言いつつ、決定的に自分のことしか考えられず、夢想に遊び、生きるための力を得ようとしない二人の男。男の、のたうちまわる苦しみすら皮相的だ。二人の男を生かすために、妹自ら不幸せな境遇に陥ることで、二人の男に無力故の絶望を思い知らせる。然し、妹には一種の勝算があるに違いない。堕ちた先においても彼女は自分の生を見事に生き抜くに違いない。強き妻となり、母となり、一家の中心に収まるであろう。その程度のことをやり遂げるくらいに、これまでも十分地獄は見ている。其して絶望した二人の男は、そこから立ち上がることによって初めて生きる力を得ることができる、初めて文学で生きる力を、覚悟を得る。妹は自分が二人の男から離れ堕ちることでしか、二人の男が生きる力を持つことができないことを知っている。 自分一人も幸せにできない男に痛烈な一撃を喰らわせ、そして、そのことによって生きる力を与える。復讐と自己犠牲と憐憫、愛欲、愛憎の重層性、それでいて全編を覆う登場人物全員の生きることに対する厳しさの欠如。

 実篤はこの戯曲の中で、勃興しつつある資本主義と結果もたらされる拝金主義が如き風潮に、か細い抗議を試みている。その抗議の弱さ、自らの甘さに実篤は自覚的であったと思う。今の世も本来より良く生きるための手段でしか過ぎない筈の経済(を支える制度と仕事)といったものが、生きる目的と化し、夢想すら許されず、選択的な貧しさを選べない世の中になってはいないか。 極端に言えば、生きることそのものを楽しむことを諦めるか、強いられる貧しさに喘ぎ苦しむか、そんな二者択一の世の中に生きる閉塞感と向かい合っている。

 しばし夢想に耽ったが、これだけの思考を誘うのだから、それもまた素晴らしい演劇であったことの証であろう。

 蒼井優、大河ドラマ龍馬伝で、抑制のきいた透明感のある表情と激しさを併せ持つ上手い女優さんだなと思ったが、今回も微笑が凄味のある演技だったと思う。

0 件のコメント: