少年が青年となり父のもとを離れる成長物語ではあるが、其の不思議な設定と登場人物達の個性が故に異様な緊張感を持っている。驚くような筋書きがあるわけでもなく、箴言が散りばめられているわけでもない。少年と父と若い継母の話。ナポリの海に浮かぶ小さな島であるプロチダに生まれ、ならず者の父を神聖視して育った一人の少年が父とも訣別し十六歳で島を出て行くまでの物語だ。
大して劇的な出来事が起こるわけでもないが、不思議に物語に引き込まれていった。
少年は、本当の父と母を求めるが、決して手に入れることはできない。
最後の一章は交響曲の終楽章さながら憂いを秘めるコーダが展開し徐々にテンポを上げて一気にフィナーレまで駆け抜けるような疾走感がある。
プロチダの外は希望に満ち溢れているかのような錯覚に陥ってしまうが、其れは青年となったアルテゥーロが今後体験するであろう数々の悲劇の始まりに過ぎないことが分かってくる。幸せな日々の喪失、冒険譚に耽溺し父親の神秘と権威を疑いもせずに信じていられた日々。アルトゥーロにとっての楽園喪失の物語に奇妙な共感を抱かずにはいられない。
この小説へのステロタイプな謳い文句である、少年が性に目覚め継母に禁じられた愛を抱く、という設定は数ある少年の成長の証の一つではあるが極端に言ってしまえば単なる小道具の一つであり余り重要な役割を負わせるのは正当ではないような気がする。少なくとも私にはそう感じられる。
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