ポール・オースターの作品は翻訳で出ているものは全て読んでいるが、ここ数作の中では最高の作品ではないか。次は一体どうなるのかという不安と期待で一気に読み通させてしまうだけのストーリーテリングと質的な強度を持った作品だ。
これは「痛み」の物語だ。生きることが本質的に「痛み」と向き合い、つきあって行くことであることを複雑なストーリーの中で一貫して説いているように感じる。
一筋の希望。
ハッピーエンドを求め、少しでも希望の痕跡を探そうとする読者の思惑を見透かしたかのように希望をグレーの布で覆い隠し目に見えぬものにしている。覆いの下にあるのは本当に希望なのか。それすらも確かではなくなる。
所謂幸福な人間はほとんど登場しない。それでいて重苦しい空気だけが支配しているわけではない。
死者の世界、死者に属するものからの逃走。
過去を振り返ることでしか未来を生きられないのだとしたら、此れは悲劇と呼ぶべきではないのか。未来は決して訪れないし、過去を生きることはできない。